競輪場の観覧席が見えてくる。目指す目的地はもうすぐそこだ。公園内にはいると、木が鬱そうと繁っており、心なしひんやりとした空気に包まれる。左手にはSL(スチーム・ロコモチブ=蒸気機関車)が静態保存されている広場があり、プールはそのすぐ先だ。ようやく到着。
汗でTシャツが、グッショリしっている。陸軍仕様アルマイトの水筒から麦茶を少しくちにふくみ、早也にも飲ませる。入口でチケットを買う。
大人150円、子供80円は実に良心的な価格設定。更衣室で着替えをすまし、すぐにプールサイドへ。正面には50Mの本格的な競泳プールがある。
高校1年の夏、俺はここに毎日通った。水泳部に入りたかったが、あいにく新設校でプールがないお馬鹿さん学校だった。雑誌その他でスイミングクラブを探したが、今と違って本格的に泳がしてくれるスイミングクラブは皆無だった。それでも、かろうじて見つけたところを何件か当たってみたが、小学生以下を対象にした物ばかりだった。
なぜそれほどまでに、俺が水泳に固執していたかというと、モントリオールオリンピックに刺激されたからだった。当時、特に俺がかっこいいと思ったのは、男子米国水泳チームで(注、モーホではない)モンゴメリー、グッテン、ジョン・ネーバー、ヘンケンなどに憧れていた。妖精と呼ばれていたコマネチが大人気だったが、俺の興味は、勝負よりも記録を塗り替えることに必死で泳ぐグッテンやジョン・ネーバーだった。くれぐれも言っておくけど、ジョンベネじゃなくてジョン・ネーバーだからね。
けちな俺ではあるが、思う存分泳がしてくれるのならば、小遣い全額投資しても良いと考えていた。しかし、いくら探しても当時そのようなスイミングクラブはなかった。やむを得ず夏を待って、行きついたのが他よりも1週間は早く開業し、滅多なことでは休まない千葉公園プールだった。