しばし 陸を歩いているとお目当ての店が見つかってしまった このまま見つからなければ 大盛りてんこ盛りのかつ丼にありつけるといまだ未練がましい僕が居る
ふと見ると その先に見慣れたイラストが描かれたお店があるではないか よーく 目を凝らして見るとそこには himajinと書いてある イラストの主は
そう ジョン・レノンです はいっ
窓越しに店の中をのぞいてみると ドラムセット等が見える うーむ どうやら ライブもできる喫茶店のようだ 氷のノレンも出ているし 営業中だから 鰻を食べたら 寄ってみようと云うことになり とりあえず鰻を食べに行く その日は お盆で 日差しは照り照りではあるが やや北寄りの風が心地よい 日本庭園風の坪庭がある 店の奥座敷は 冷房を止めて窓が開け放たれ 葦ずに風鈴が日本の正しい鰻飯屋を醸し出している
早速 キャプテンとともに鰻重の上(肝吸い付き)を頼み 茶でも啜りながら 優雅に午後のひと時を楽しんでいる 少々飯の量が心もとなく あっさりと食べ終わってしまい なんだかなと思ったが 腹のほうは 先ほどのあんパンのおかげもあり 落ち着いている
さて himajinにでも行くかとも思ったが 酒場の水飲み場ならぬ 係留杭に停めてある舟が気になり戻ることにした 船乗りの悲しい性かもしれない 午後は腹も満たされ ちょっとアンニュイな気分の中 また漕ぎいづると それまでの狭い水路から パーっと目の前には 坂東太郎の大川原が開ける
風もほどよく増し うーん いい気持ち 午後は 利根川県境を越えて 佐原方面の加藤十二橋の方に針路をとった 面舵を取ると水路の入り口である水門がある 面舵と云えば右旋回 所謂スタボーだ ウインドをやっていた時 スタボーと云えば 左手が前に来る側に乗ることを示す用語だ 普通右利きの人は 右手が前に来る ポートを得意とするのがウインドの世界だった
昔 検見浜で カヌーにウインドを縛り付けて 沖までは漕いで運んでもらい 沖では ウインドでカヌーを引っ張ると云う遊びをしたことがあった これが結構面白くて 機会があったら是非また挑戦してみたい
さて 加藤十二橋の水路の方は いくら紐を引っ張っても
「開モーン」
「開け胡麻」
「この紋所が目に入らぬか?」と黄門さまの様に叫んでも一向に水門は開かない
やがて 鰻で満たされたおなかがこなれてきて ケツの方の肛門様がゆるんで開きそうになってくる やむを得ず 水門の反対側に様子を見に行くも よくわからない ただ 水路に降りていける階段があるので 最悪でもカヌーを担いで行けば 先に進めるのが分かった
さて じゃあ カヌーを担いで行きますかと思っていると観光遊覧船がやってきて 船頭のおばはんが この水門はどうしたら開きますか?とおいら達に聞いてくる あんたプロの舟漕ぎなに そんなことも聞かれるとは おれたちも 真の船乗りと認められたのだな と心の中で思ったが 口には出さなかった
やがて 遊覧観光船はバックで引き返して行く おいら達も カヌーを担いで 口笛吹きつつ 陸を越えて行った 別に牧場を目指してるわけではないが 水上店舗があったりとか 思案橋ってのあったりとか観光案内に書いてあったので そこを目指した
結局たどり着いても 店はやっていなかった 思案橋ってのも本日二回目だし どうせなら 泪橋ってのがあって 丹下の親爺とか明日のジョーとか居てくれると其れは来た甲斐があったのだが あろうはずもない
もう午後は ゆっくりと茶でも啜りながら おせんべでもかじってゆっくりしたいから上陸先をさっきから探しているのだが キャプテンの上陸許可は依然下りていない しばらく行くと又 川幅が広くなり 加藤一二橋があっさり終わってしまったことに気がつく
ところで さっきから行き駈っていた遊覧船は どこが発着地点ののだろう そこを最終上陸地点にすれば 車を置いた場所まで引き返す交通手段も すぐに見つかるように思えた がそれが見つからない しばらく行き 遊覧船の引き込み線のような所を発見 そこへ入って行き その日の最終上陸地点とする
ふっー やっと終わった しかしそれからがまた 大仕事 車のあるところまで引き上げて かたずけと云う作業が残っている キャプテン アコギーが 車を取りに行ってくれる その間拙者は カヌーを分解し しばし休息 横になりながら 雲の流れを見ている 成田国際空港に近いせいもあり 飛行機が頻繁に行きかっている 飛行機雲の筋が見える
更におそらく東関東自動車道と思われる 上空には 道路に沿った雲が帯状に伸びている 平和だ けだるい筋肉痛とともに そのまま眠ってしまいたい気分 しかしながら 田んぼの中にいる不審者である自分を目敏く見つけ 近所の田んぼの主が頻繁に 見回りに来る
その都度 愛想笑いを浮かべ カヌーで東京湾から来たことを説明する 最初のうちは 自慢話も含めて 事細かに語っていたが 3度目ぐらいにはもううんざりしてきた 田舎の爺様を相手に おしゃべりするよりは もっと きれいな人妻でも現れては来ないのだろうか 周りを見回すが 遠くにJR十二橋駅が見えるぐらいだ この辺はまだ 113系が走っている 鉄としては嬉しい 30数年前に あの113系に乗って潮来まで来たのだ まだ現役で走ってくれているのが しみじみ嬉しい
そうこうしているうちに いつの間にか眠ってしまったらしい 気がつくと キャプテンのフォードが停まっている さっさと荷物を片づけて 帰路につく 帰りは 穴川に新しくできた 極楽湯と云う銭湯に浸かって疲れを癒し 帰った とても有意義な そして 優雅な一日だった