さて、外は熱いし、斜め向かいにはセミロングストレートがかすかに視界に入るし、そのまま元の席に戻りつつまた、京成線の分岐を眺めつつ、椎名誠のハードカバーに目を落とす。明日、圭三君と会ったら、一緒にビールでも飲もうと考える。
奴は、俺が貧乏なのを知っているから、発泡酒を勧めるのだが、日頃それを飲み慣れている俺は、親友と酒を飲むときぐらいは、うまいビールが断然良いと思う。そのことを言うと、必ず
「贅沢だ」と圭三君の言葉が返ってくる。
この「贅沢だ」というのは、彼の中学校以来の口癖で、他にも
「ただより安いものはない」とか
「好物はミカンの皮です」とか数々の名言を生み出して来ている。
まだ聞いたことはないが、きっと彼の座右の銘は
「棚からぼた餅」に違いないと思う。
そんな彼も、現在は千葉県下でも選りすぐりの優良企業に勤めていて一応は管理職の地位にある。会社ではきっと、トヨタ自動車も顔負けの徹底したコストダウン政策で、部下を苦しめているのではないかと友として心配だ。