そのお母さんは、大会の時にはいつも手作りお弁当を、持ってきている。以前倉敷名人戦千葉県大会予選が有ったときにごく近くに、たまたま居合わせたことがあり、それ以来ちょっと気になる存在になっている。ほのかに石鹸の様な、香りがして、胸ときめいたのを今でも覚えている。
と、同じ将棋教室に通う子のお父さんが、ストレート・セミロングお母さんに何事か話しかけているではないか。ぬぬぬぬぬ。俺も見たことがあるその親爺は、将棋教室の常連で大会の時には、子供たちだけで来る子もいるから引率役をしている。顔立ちが明石家サンマに似ており、実際よく喋る親爺だった。首を縦に振りながらしきりに喋っている。何か面白いことでも言ったのであろうか、ストレートセミロングもくすくす上品に笑っている。
目の前に現れた強敵に、俺は、成すすべもなくじたんだを踏んでいる。うーむ、あいつが俺のライバルか。なんか、あんなのを相手にするのはイヤだなぁと、奥歯に力が入り、ニヒルに薄笑いが自然と浮かぶ。端から見たら、きっと苦虫を噛みしめたように写っているかも知れないし、事実そうだった。ともかく、こっちは存在すらも知られていないだろうから、もはや、かなりの水をあけたれていることは確かである。何とかお近づきになれないものだろうか。