当時、賃金カットの会社は、残業規制があるのに仕事は目一杯あり、いつも帰りが遅かった。子供は夜泣きをしたし、うつらうつらするとすぐに朝が来て、疲れがとれなかった。夜遅くに会社から帰ってくると、子育てに追われている妻はよく子供のこととかを話しかけてきた。疲れている俺は自分の興味のある子供のことには耳を傾けたが、妻の悩みとか、近所の奥さん連中の子育て奮闘記の類には耳を貸す余裕がなかった。そんな上の空に業を煮やしたのか、ある日、妻は言った。手当が付かないのならもう少し早く帰って来れないかという。ほとんど無意識に、今は無理だと言い放つ。他にも何か言ったようだったが、面倒なので、上の空で聞いていた。それにたまりかねた妻が、
「いつまでも片づかないから酒飲んで、だらだら夕飯を長引かせるのはやめてくれ」と言った。
その言葉に、わがミミズ頭は、直動式リリーフバルブのごとく反応してしまった。
今考えると、なぜもう少し早く帰れなかったのか、なぜもう少し優しくできなかったのか、なぜもう少し、子供と係われなかったのか、取り戻せない時間と共にもどかしく思う。