団地に住んでいる 夏の夜は 網戸をして 窓は開けて寝る 酒を飲んで 夜の8時には寝てしまうこともある
するとふとした事で 夜中に目が覚めることがある その日もぼそぼそと 外から 怪しげな会話が聞こえてくるのが きっかけで目が覚めた その前の時は こつこつと響く ハイヒールの靴音で 目が覚めた時もあった
どうも この団地は 水商売系のおねぇ様が住んでいるようだ 夕方出勤して 深夜に帰宅する ヒールの響く音を聞いていると そんなパターンが見えてくる そのパターンに慣れてしまうと いつもの定刻にヒールの音を聞くことが 習慣となって かえって安心したりもする
その日はいつものヒールの音ではなく ぼそぼそと云う会話であったが為 異様に感じ目が覚めてしまった 最初のうちは うとうとしている中 気にも留めていないかったが だんだんと会話が気になり眠れなくなる そうこうしているうちに 会話の声のボリュームもやや増して来るから 気になってしょうがない
「だめよ だめっ」とか
「どうして?」とか
「だって ○○なんだもの」とか
「いいじゃないか」とかを延々と繰り返している
こっちも完全に目が覚めてしまい その先の進展を期待するのであるが 杳として進展しない会話が続く よほどボッキャブラリー に乏しいカップルと見える
いい加減 じれったくもあり 馬鹿馬鹿しくもあり 次の日のことを考え そろそろ寝たいと思うのだが 団地の中でのぼそぼそ会話は 結構響いたりするので うるさい たまりかねて 網戸をあけて
「おしゃべりなら どっかほかに行ってやってくれ」と思わず お節介爺の如く発してしまった
よく見ると 欲情した 中年女と 若者風青年のカップルであった
「すいません」と言葉を残し
2人でどこかに去って行ったが それからしばらくは こっちも妙に興奮して寝付けなかった 寝苦しい夏の夜の出来事であった